川野瑞季さんの個人大賞

以前つくったWebサイト本の記憶での企画「個人大賞」に頂いた投稿を転載致します。

【個人大賞とは】あなたにとって「一番」の本は何ですか。皆がそれぞれ一番お気に入りの本を一冊ずつ持ち寄ったら、きっと素敵な場所ができあがるはずです。個人大賞はそんな「一番」の集う場所。実名制です。

『落下する夕方』(江國香織)

落下する夕方 (角川文庫)

8年間付き合っていて同棲していた彼 健吾が、新しく好きな人が出来たから、と言って出て行ってしまうお話。出て行ったと同時に、健吾が新しく好きになったという女の子 華子が、なぜか自分の家に転がり込んでくる。しかし主人公にとっては、自分1人で暮らすよりも華子と暮らす方が、まだ自分にとって好きな人である健吾と近いことになるので、一緒に暮らすようになる。好きな人が自分と同棲している女の子に会いにくる日々。その過程で少しずつ時間をかけながら、主人公は失恋していく。

好きになった相手に対して、心の底から大事にしたいという感情を抱いてしまった人間の心情を、正確に感じられる表現で描いている所が好きな本です。また、華子がとても不思議だけど心が美しくまっすぐな女の子で、読んでいて安らかな気持ちになります。

江國さんは、格好悪い人間の心情を包み隠さず書いているのに、とても綺麗な言葉でそれを表現する人で、文章を読んでいるというよりも、静かな美術館で美しい絵画を眺めているような気分にさせてくれる人だと思います。もしくは風が心地よい原っぱに来たような気分にさせてくれる人。

ちょっと一息つきたい時に、静かで居心地の良いところへワープさせてくれる感じが好きです。

(川野瑞季/20代/大学生)
2013年5月21日