平田嵩人さんの個人大賞

以前つくったWebサイト本の記憶での企画「個人大賞」に頂いた投稿を転載致します。

【個人大賞とは】あなたにとって「一番」の本は何ですか。皆がそれぞれ一番お気に入りの本を一冊ずつ持ち寄ったら、きっと素敵な場所ができあがるはずです。個人大賞はそんな「一番」の集う場所。実名制です。

『新世界より』(貴志祐介)

新世界より(上) (講談社文庫)

貴志祐介さんの作品と言いましたら狂気や恐怖を描いたホラー作品が目立ちますけれど、SF作品にもまた狂気じみて面白いものがたくさんあります。
その中でも、昨年はアニメにもなって一躍有名になった「新世界より」を紹介したいと思います。

今から1000年後の日本。「呪力」(いわゆる超能力)を手にした人間たちは、ほのぼのとした自然豊かな集落「神栖66町」でバケネズミと呼ばれる生物を使役し、閉鎖的ながらも平和な生活を送っていた。

その町で生まれた渡辺早季は、他の子供たちと同じく12歳で呪力が発現し、呪力の訓練を行う「全人学級」に入学する。
早季は、これから始まる学園生活に胸を躍らせる一方、全人学級のそこはかとない違和感に不安も感じていた。

そんな中、夏季キャンプで同級生たちと共に利根川上流に行った早季は、「ミノシロモドキ」という珍しい生物を発見する。
だが、その正体は、先史文明が遺した「国立国会図書館つくば館」の自走型アーカイブであった。
早季たちは、ミノシロモドキから今まで人類がたどってきた血塗られた歴史に触れてしまい、自分たちの社会がいかに歪んでいたかを気付かされる。

そこから平和だった生活はガラリと一変する。呪力の喪失、友人の失踪、バケネズミの反乱と、これから起こる数々の事件に、この世界の真実を知ってしまった早季たちはもちろん、その周りの人々も巻き込まれてしまう。

と、こんな感じのあらすじですけれども、世界観や時代背景が現在と全く異なったり、作品特有の専門用語が多かったりするせいか、非常に読みにくいかもしれません。けれども、貴志祐介独特の手探り感のある進行や先の読めない展開、絶妙な伏線の使い方に、誰もが読んでいるうちに引き込まれていき、ハラハラさせられるに違いない、そんな一冊(正確には三冊)だと思います。

(平田嵩人/20代/大学生)
2013年5月25日

僕の感想もこちらに書きました。

織原暉さんの個人大賞

以前つくったWebサイト本の記憶での企画「個人大賞」に頂いた投稿を転載致します。

【個人大賞とは】あなたにとって「一番」の本は何ですか。皆がそれぞれ一番お気に入りの本を一冊ずつ持ち寄ったら、きっと素敵な場所ができあがるはずです。個人大賞はそんな「一番」の集う場所。実名制です。

『神の子どもたちはみな踊る』(村上春樹)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

「蜂蜜パイ」は、『神の子供たちはみな踊る』に収録されている短編小説である。

村上春樹の作品には、3角形の関係や4角形の関係、5角形の関係が登場する。しかも、それらは恋愛や友情のバランス感覚を含むかなり密な関係性である。

「蜂蜜パイ」では、淳平、小夜子、高槻、沙羅という4人の登場人物が、移りゆく状況の中で、関係性の形状を変えながら、関係を築いていく。

受動的な姿勢で、自分に自信の持てない淳平、サッカー部のキャプテンも務め、リーダーシップの取れる高槻、知的で穏やかで周りのことを気遣える小夜子といったそれぞれの登場人物の性格がどのように3人の関係性に影響しているかは見所の一つである。

また、沙羅は、小夜子と高槻の間に生まれた子供であるが、彼女の存在は、4人の関係性を大きく変える。

「蜂蜜パイ」は、人間関係のバランスを保つ受動的な義務感と能動的な義務感の大きな違いを深く考える機会を与えてくれる、そんな内容であると感じた。

(織原暉/20代/大学生)
2013年5月23日